アラフォーママの好きなものブログ

好きなものを好きなだけ披露していくブログ

小説感想:三浦しをん『光』

三浦しをん作『光』 感想


この作品を読み、予想外の雰囲気に驚きました。

なぜなら、三浦しをんの小説とは

思えないほど、暗く思い内容だったからです。


他の小説は、どちらかと言うと軽快で、

笑いを誘うような会話も多く、また

物語が明るく希望に満ちているので、

元気づけられることが度々ありました。


ところが今作は、初めから終わりまで

一貫して重苦しく、人間の感情の暗い

部分をえぐるように描き出しています。


しかし、それで期待はずれだったかと言うと

全くそうではなく、むしろジャンルに

とらわれない作者の力量を見せつけられた気がしました。


もうひとつ驚いた点は、この作品が津波

大きな軸に据えながら、実際には東日本

大震災の5年も前に発表されていることです。

 

偶然ではありますが、震災後に読んだ私に

とっては、より現実味をもって迫ってくる

ものとなりました。

 

そして震災前に書かれたにもかかわらず、

津波の描写は非常にリアルで、その後の

人々の様子も想像で描かれたとは思えません。


読んでいる間、いつ明るい展開になるの

だろうと淡い期待を捨てませんでした。

 

それは三浦しをんの他の作品を読んで

いたせいもありますが、「光」という

タイトルと、白いハードカバーから、

なんとなく希望ある物語を予想していたんです。

 

しかし読了後、「光」という言葉に対する

イメージが変わりました。

 

既成の概念に雌を入れるような言葉の

センスも、今作が好きな理由のひとつです。


また、これは三浦しをんの作品全般に

言えることですが、日本語がとても美しいです。

 

そのおかげで、物語は人間や人生の醜さを

描いているのに、なぜか不快になることなく、

すんなり読めてしまいました。

 

絶望的な気分にさせられながらも、小説と

いうものの力については、非常に前向きに

考えさせられたと言えます。

 

三浦しをんの異色作『光』