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読書感想:福田隆浩「この素晴らしき世界に生まれて」

世界は少しだけ素晴らしい

 

人生の福田隆浩さんの「この素晴らしき世界に生まれて」。


聾学校へ通う小学6年生の里美が

学校が終わった後、いつも寄り道

する図書館で物語は進みます。


死の谷の王女」という不思議な本。

 

そこに出てくる主人公は、死期の近い

母を助けるために、死の谷の王女の元へ

向かう冒険に出かけます。

 

その本の物語が進む中で、里美の物語も

変化していくのです。


里美は、いつも自分に自信がありません。

 

家庭では仲のよい母と自分とは正反対の

姉との間に距離を感じ、学校では進学の

ことを前向きに考えている同級生とは

反対になんとなく毎日を過ごし、

勉強も得意ではない自分を比較する毎日で、

居場所のなさを感じながら生活しています。

 

その里美の思春期特有の孤独感や自分は

ひとりぼっちなのではないか、と思い

ながら生きる姿に初めて読んだ時、

 

私は強く共感し、言葉に表せない気持ちを

里美が代弁してくれているように感じました。


誰もが持つ、なんとなくの孤独感を

明確な言葉ではなく人の心情や描写で

表わしている点が、この作品の最も好きな理由です。

 

人が生きている中で生まれる言葉にできない

何かを、言葉でしか表せない本がこんなにも

上手く表現するのかととても感動したことを

今でも覚えています。


物語の中でも、里美は当初、自信のなさ

からくる孤独さ故に、自分を大切に思って

いる家族や先生、同級生、果ては図書館の

司書の方や図書館にいる利用者に対しても

不信感や恐怖感を抱いていました。

 

しかし、「死の谷王女」という本との

出会いと図書館にいる1人のおばあさん

との出会いを通し、自分は独りではない

ということと愛され、大切にされている

ことに気づくのです。

 

それによって、自信をすぐに持てるわけ

ではないけれど、自分を好きになり、

目標を持って生きることで、物語は幕を閉じます。


人生や置かれている環境に不満を抱く

こともあると思います。

ですが、自分が思っているよりも、

世界は少しだけ素敵なのだとこの作品を

読んで強く感じました。


また、私がこの作品を好きな理由として、

児童文学ですが装丁がとても美しいと

いうこともあるんです。

 

中央に描かれたクリスタルの絵は

本物のように透明感があり、ずっと

見ていたくなるような優しい装丁です。