アラフォーママの好きなものブログ

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『博士』以外も愛せる小川洋子作品について

 

小川洋子、という作家をご存知でしょうか。


彼女の名前は知らなくても、『博士の愛した数式』という本のタイトルはご存知の方も多いかもしれません。


2004年、まだ創設されたばかりの文学賞本屋大賞」の記念すべき第1回目で大賞を勝ち取ったこの作品は、「本屋大賞」という賞とともに大きな話題となり映画化までされました。

医療機関の秘書室で働いていたという彼女の作品には、病室や標本といった、理系の匂いただようモチーフが数多く用いられます。


だからといって理屈っぽくはなく、むしろ繊細で感受性豊かな文体で読者を惹きつける、不思議な魅力を持った作家さんです。

さて、彼女の作品が大好きな私ですが。
中でも一番のお気に入りは、『密やかな結晶』です。

多数の文学賞を受賞した彼女の作品の中でも、どうして何も受賞していない『密やかな結晶』が好きなのか。
好きな理由は、「1番彼女らしい作品だと感じた」からでしょうか。

舞台はある島です。


この島に住んでいるかぎり、住民は心の中から一つ一つものを「なくして」いきます。
「鳥」や「香水」、「カレンダー」・・・心の中からなくなったものはそこに存在していても認識できなくなり、そうなると住民は、物理的にもそのものを「なくして」いく。
やがて消滅は左足にもおよび、最後には主人公の「私」もきえていく。

寂しいあらすじに感じるかもしれませんが、作品の中ではむしろ「なくして」いくものがいきいきと描写されています。
たとえば香水、というひとつのものに関しても、読んでいるうちにまるで本当にうっとりとする香りが漂ってくると錯覚するほどです。
消滅によって描かれたものが、小川洋子という作家の手を借りて、読者の脳裏に焼き付けられていきます。

そして好きな理由のもう1つは、救いが残されていることでしょうか。
暗い内容に感じるかもしれませんが、その救いが、ラストに鮮明かつシンプルに描かれています。
私がこの小説に暗い印象を持っていないのはおそらくこの救いがあるからでしょう。

博士の愛した数式』を読んだことがない方、読んだけど数学を見るだけで先入観を持ちやめてしまった・・・という方、
ぜひ『密やかな結晶』をまずお読みください。
難しいモチーフはないこちらのほうが、小川洋子という作家の魅力を味わいやすいかと思います。
そして気に入っていただけた時には、是非改めて博士に会いに行ってくださいね。